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老後、育休、働けなくなった時…。フリーランスに必要な備えとは - FPに聞く資産形成シリーズ
将来に備える

老後、育休、働けなくなった時…。フリーランスに必要な備えとは - FPに聞く資産形成シリーズ

武藤貴子
2021
10
19

お悩み:昨年結婚したのを機に、会社を辞めてフリーの翻訳家兼ライターに転身しました。収入に変動はあるものの、夫婦二人で生活する分には困らないのですが、フリーランスなので、老後や働けなくなった時などのために自分で備えなくてはと考え始めています。

また、そのうち子どもを授かりたいですが、仕事を休んでいる間私は無収入になるため、不安です。今から何かやっておいたほうがいいのでしょうか。

 

相談者:28歳、女性、既婚、フリーランス(翻訳家、ライター)

家族構成:夫(会社員/36歳)と二人暮らし

手取り月収:夫/約35万円、妻/約30~45万円(月による)


加入年金:夫/厚生年金、妻/国民年金

退職金:夫/あり、妻/なし(前職で受け取っている)


現在の保有資産は以下の通り


・普通預金口座①(家族貯金)…約670万円

・普通預金口座②(相談者の貯金)…約280万円

・普通預金口座③(夫の貯金)…約300万円


ある1ヶ月の支出は以下の通り

グラフィカル ユーザー インターフェイス自動的に生成された説明


※夫の支出分の一部は不明


【今後想定しているライフイベント】

・3年後…第1子出産

・4年後…マイホーム購入

・24年後…夫定年(継続雇用を希望)

・25年後…第1子就職


【想定している年間イベント】

・特になし(近場の国内旅行など)


お金のプロからのアドバイス

夫が会社員、ご自身はフリーランスの翻訳家、ライターをしている女性からのマネー相談です。結婚を機に会社を辞め、夢だった翻訳家とライターの仕事をフリーで始めましたが、会社員時代のような保障が少なく不安だと言います。確かに、国民年金だけでは老後資金が不足するかもしれませんし、子どもが生まれても育児休業給付金のようなお金は支給されないため、仕事を休んでいる間は無収入となります。また、病気やケガで働けなくなった時も、会社員のように傷病手当金はもらえません。フリーランスで働くなら、自分で万が一に備えておく必要があるのです。相談者の事例をもとに、フリーランスに必要な備えについてご紹介します。


■ 手取りの一定割合は「備え」に使おう

フリーランスや自営業で働くなら、会社員の人以上に、自分で必要な保障を備えておかなければなりません。それは、いざという時、会社員のように公的保障でまかなえる範囲が狭いためです。たとえば、病気やケガの療養で働けなくなった場合、会社員であれば勤め先の健康保険から「傷病手当金」が支給されます(連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったなどの条件あり)。


また、子どもを産む時には、フリーランスでも「出産育児一時金」、子どもが生まれてからも「児童手当」がもらえますが、会社員の場合、さらに「出産手当金」や「育児休業給付金」などが受け取れます。出産手当金は、産休中、産前42日~産後56日を対象として、給料の約67%を受け取ることができる制度です。育児休業給付金は、育休中の半年~最長2年間、給料の約67%(6ヶ月以降は約50%)が受け取れます。さらに、会社員の人が産休や育休を取得している間(産休、育休ともに開始月から終了月の前月まで)は、社会保険料が免除となるのです(勤め先にて手続きが必要)。免除を受けている間も、被保険者としての資格は継続します。


療養が必要な時や出産前後だけ比べても、会社員とフリーランスではこれだけの待遇の格差があるのです。これに加えて、厚生年金に加入している会社員は、将来受け取れる年金が手厚いというメリットもあります。それに、会社員と比較して、業績と収入が直結しやすく、経済的リスクが大きいのもフリーランスの特徴です。フリーランスは、努力や工夫次第で仕事や収入を増やしていける、自分のペースで自由に働けるという側面がありますが、会社員の人以上に、自分自身で必要な保障を確保したり、貯金をしたりして備えておかなければいけないのです。


仮に、会社員から独立してフリーランスになり、収入が増えたとしても注意が必要です。そこから税金や社会保険料を支払い、さらには、保険に加入したり、働けない期間のために貯金をしたり、老後資金の不足分を蓄えたりと、収入の一定割合は「備え」に使うことが大切です。


■ フリーランスに必要な保険とは

では実際に、どのような備えが必要なのでしょうか。家計簿や資産を拝見すると、貯金はしていますが、相談者は保険に加入しておらず(夫は加入している)、また、老後資金の準備もしていません。まずは、フリーランスである相談者に必要な保険について見ていきましょう。


<死亡保険>

死亡保険とは、加入者である被保険者が死亡した時(もしくは、所定の高度障害になった時)、のこされた家族に保険金が支払われる保険です。死亡保険は、基本的に、「自分が働いた収入で養っている家族がいる場合に加入する保険」と言えます。相談者は共働きですが、夫は正社員として仕事をして安定収入がありますので、仮に相談者が亡くなっても経済的に困ることにはなりません。また、養っている子どももいません。つまり、現状では死亡保険に加入する必要はないのです。


ただし、子どもが生まれて、子どもの生活費や教育費を相談者の収入からも出すようになれば、死亡保障は必要です。子どもが独立するまでの必要な保障を確保しましょう。


<医療保険>

現状では相談者には死亡保障は必要ありませんが、では、医療保障はどうでしょうか。医療保険は、病気やケガで手術や入院となった時に、給付金が受け取れる保険です。民間の医療保険への加入は「必ず必要」と考える人が多いですが、健康保険に加入していて、いざという時のための貯蓄を充分している人なら、絶対に必要とは限りません。


相談者の場合、「しっかり貯めているので加入しなくてもいい」と言いたいところですが、今後子どもを望んでいることや、出産と育児で仕事を休んでいる間は会社員のように手当が出ないことを考えると、近い将来、まとまったお金が出て行く可能性があります。そのため、手術と入院に備える最低限の保障だけは購入すると良いでしょう。


<がん保険>

一般的に、がんの治療費は高額になる傾向があります。がん保険とは、そのようなお金の負担をカバーするための保険です。がんは、日本人の2人に1人が一生のうちに診断されるリスクのある病気ですし、がんにかかるとそれ以前のように働けなくなることもあり、備えはしっかりしておきたいところです。特に、フリーランスの場合、がんにかかった時の経済的なリスクが大きくなります。医療保険とあわせて、加入を検討しましょう。


<就業不能保険>

病気やケガで働けなくなった時、前述のように、会社員であれば勤め先の健康保険から傷病手当金が支払われます。つまり、勤めている人なら、療養を余儀なくされ就業できなくても、突然収入がなくなることはないのです。一方、国民健康保険に加入している自営業やフリーランスの人は、残念ながら傷病手当金の支払いがありません。働けなくなると、すぐに収入の減少に直結する恐れがあります。公的保障の手薄なフリーランスの人は、就業不能となった時のことを考えておく必要があります。


このように、働けなくなった時の無収入や大幅な収入減状態をカバーするための保険が「就業不能保険」です。就業不能保険は、長期療養となった時のリスクに備える保険で、仮に働けなくなって収入が減少したとしても、今までの生活水準をある程度維持するのに役立ちます。


たとえ相談者が就業不能となっても夫の収入がありますが、長期間、生活費の不足分を貯金で補うなどしていれば、生活の不安が大きくなるでしょう。住宅購入や子どもの教育資金など、特定のライフイベントのためのお金を生活費の補てんに使ってしまえば、人生計画が狂うことにもなりかねません。共働きで自身も生活費を稼いでいる相談者は、就業不能保険の加入も検討が必要です。


■ 老後資金や「産休・育休」期間の生活費は

<老後資金>

保険のほかに考えておきたいのは、「老後資金」です。厚生年金を抜け国民年金の被保険者となりましたので、これだけでは老後資金の不足が少し心配だからです。相談者の家庭では、夫と合わせて毎月約18万円(収入が多い時はそれ以上)の貯金をしています。ここから、一部をリタイア後の生活費のため積み立てておきたいところです。


たとえば、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」を活用した場合、国民年金の第1号被保険者である相談者は、毎月上限6万8,000円まで掛金を拠出できますが、毎月5万円ずつ積み立てるだけでも60歳までに約3,200万円もの資金を作ることができます(積立期間32年間、運用利率3%で計算)。相談者は現在28歳ですが、老後までの期間の長さを武器に、早めに積立を始めるのが賢明です。


<産休・育休期間中の生活費>

一方、産休や育休期間中の収入減にはどう対応すればいいのでしょうか。相談者の仕事内容からすると、出産前後は仕事を完全に休むことになり、収入はゼロになります。会社員のような手当、給付が出ないわけですから、無収入期間に備えあらかじめ貯金をしておいたり、今ある貯金の中から休業中の生活費を別途分けておいたりといった対策が必要です。


たとえば、現在毎月貯金している約18万円のうち、5万円を休業中の生活費として第1子出産予定までの3年間貯めたとすると、「5万円×12ヶ月×3年間=180万円」となります。このうち、半分は出産や子どもにかかる費用、残り半分は休業中の生活費の補てんとすれば、相談者の休業期間が1年の場合、夫の収入にプラスして月7万5,000円ほどは「収入」がある状態をキープできます。ちなみに、夫だけの収入で生活する場合も、子どもが生まれれば支出が増えますので、生活費を圧縮した家計で暮らすシミュレーションをあらかじめしておくのもいいでしょう。


また、自分が自由に使えるお金(通信費、交際費、美容代など)は1ヶ月にいくらあればいいのかも明確にしておくのがおすすめです。相談者が個人的に使ったお金は、マネー相談を行った月は約7万円でした。休業期間1年、休業中は支出が5万円程度になると仮定すると、「5万円×12ヶ月=60万円」です。第1子出産は3年後と想定していますので、それまでにこの金額を別途貯めておくと安心です。単純計算で、1年あたり20万円の貯金となり、1ヶ月では約1万7,000円となります。


会社員以上に計画的な備えが大切

フリーランスで働くことを選択するなら、会社員時代は勤め先に任せることができた様々な備えを、自分の責任でしておかなければなりません。会社員と比べると、公的保障が少なく経済的リスクが大きいですが、逆に言えば、それを承知の上で対策を取っておけば問題ないのです。計画的に備え、不安なく仕事に打ち込める環境を作りましょう。


筆者プロフィール

武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)。1983年埼玉県生まれ。会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやコラム執筆を行う。独立後は、起業のコンサルティング業務とともに、執筆や個人マネー相談、メディア出演などを中心に活動中。著書に『いちばん稼ぎやすい簡単ブログ副業』(河出書房新社)がある。

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