去る8月24日、世界銀行は、同行が世界で初めて発行したブロックチェーン技術に基づくグローバルな債券によって1億1千万豪ドル(1豪ドル=0.74米ドル。約90億円)を調達したことを発表しました。投資を行ったのは、オーストラリア・コモンウェルス銀行をはじめ、ファースト・ステート・スーパー、ニュー・サウス・ウェールズ財務公社、ノーザン・トラスト、QBE保険、南オーストラリア州金融公社、ビクトリア州財務公社などのそうそうたる組織です。

"bond-i"(ボンダイ)と呼ばれるこの債券は、起債、分配、振替、管理という一連の手続きをブロックチェーンの特徴である分散型台帳技術のみで行い、高い信頼性を確保しています。ちなみに、”bond-i”の名称は「ブロックチェーンを用いた新しい債務の仕組み」という意味の英語の略ですが、債券を意味するボンドと、オーストラリアの有名なボンダイビーチをかけたものにもなっています。

念のためにおさらいしておくと、世界銀行というのは、国際連合の専門機関の1つとして、世界中の発展途上国を対象に、必要とされる資金や技術の援助を行っている組織です。その資金確保のために年間500億ドル~600億ドルもの債券を起債し、持続可能な開発支援を実現してきました。

世界的な取引や決済に対応するグローバルな債券は、同行が1989年に始めて実現したもので、2000年から行っている完全な電子債券の発行も資本市場における先駆的な取り組みとして評価されています。

世界銀行の先見性と実行力

そんな世界銀行が、少し前から注目してきた技術がブロックチェーンでした。同行は2017年6月にブロックチェーン・イノベーション・ラボを設立して、土地管理、サプライチェーン管理、保健、教育、クロスボーダー決済、温室効果ガス排出権取引など、様々な分野における応用の可能性を探ってきたのです。

そして、2017年12月に同行が発行したフィンテック関連の報告書において、次のような説明を行いました。

「この技術(=ブロックチェーン)は開発の初期段階にあり、その潜在能力を実現するにはまだまだ長い道のりがあります。プライバシー、セキュリティ、拡張性、相互運用性、法的規制など様々な面において、一般的な使用性を発行する立場にはありません」

このように慎重な姿勢を見せながらも、一方では、このように述べています。

「完璧なDLT(分散型台帳技術)ソリューション(の完成を)を待つことは、必ずしも開発組織にとって理想的なアプローチではありません。DLTが秘めている可能性を考えると、単なる研究だけでなく、実際のアプリケーションの使用によるパイロットの繰り返しが必要です」

さらに、その5ヶ月後に出された別のプレスリリースには、次のような意見も見られました。

「完璧なDLTソリューションが完成するのを待っていると、それを形作る機会を逃すことになります」

このような流れから、世界銀行が何らかのブロックチェーンの応用を考えていることは伺えたわけですが、急転直下、その技術に基づく大規模なグローバル債券を発行し、調達を成功させてしまったのでした。

先に書いたように、途上国への技術支援も行っている世界銀行は、この先、医療や交通サービスを管理するための次世代型ブロックチェーンシステムを設計することも視野に入れています。

世界銀行のブロックチェーン利用債権が意味するもの

大胆さの裏にある深い思慮

もちろん世界銀行は、世界初という名誉のために先を急いだわけではなく、豪ドル市場を舞台にブロックチェーンベースの債券発行が成功する確信を持っていたのでしょう。

豪ドル市場は、世界銀行が過去に何度も起債を行ない、1986年以来約600億豪ドルを調達している市場です。それに加え、今回の選択には、同行にとって単に馴染みがあるという理由を超えた必然性がありました。

それは第一に、オーストラリア政府がブロックチェーンの応用に対して大きな期待を寄せており、規制に関わる部分も含めて、同技術関連のフィンテック育成に積極的であること。第二に、冒頭でも触れたオーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)が、世界銀行にとって長年のパートナーであり、CBAの先端技術研究部門を高く評価していることです。

"bond-i"で利用しているブロックチェーン・プラットフォームも、CBAのシドニー・イノベーション・ラボ内の「ブロックチェーン・センター・オブ・エクセレンス」で開発されたものでした。このように、オーストラリアには政府セクターと企業セクターの双方でブロックチェーンの可能性を追求しようとする強い意志があったために、"bond-i"のデビューの場としても豪ドル市場が選ばれたのです。

一方で、世界銀行は、同じブロックチェーンの応用分野であっても、暗号通貨には慎重な姿勢を崩していません。その理由は、仮想通貨がプルーフ・オブ・ワーク、つまり偽造を防ぐための「仕事量による証明」の作業が大量の電力を消費している点にあります。同行は、途上国の経済開発を支援しているわけですから、地球温暖化の要因の1つとされる二酸化炭素の排出量や発電に伴う公害の発生などの問題にはとても敏感というわけです。

また、公的な機関として、暗号通貨にまつわる資金洗浄などの問題にもしっかり対処する必要があり、現時点ではそれを防ぐ完全な対応策がないため、この分野に取り組むには時期尚早と考えているといいます。

このように、攻めるべきところは攻め、守るべきところは守るという鉄壁のポリシーが感じられるのが、世界銀行の動きです。

パーソナルコンピュータの思想上の父とされるアラン・ケイの名言に、「未来を予測する最善の方法は、それを自ら発明してしまうことだ」というものがありますが、世界銀行は、それを「石橋を叩き」ながらも「案ずるより産むが易し」の精神で実践したといえるでしょう。


執筆者:大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける。原宿アシストオンのウェブサイト

これからの時代の強い味方
Moneytreeで資産管理を始めよう

  • Download on the App store
  • Androidアプリ Google Play