本日は、岩田先生の連載第4回目、後編です。JR東日本が新しく開始した共通ポイントサービスJRE POINTの、今後の展開について迫ります。

オートチャージが便利なSuica

私は毎日、事務所に通うのにモバイルSuicaを使っています。クレジットカードのビューカードと一体になった「ビュー・スイカ」カードのアプリをスマホに入れているので、スマホを改札機にかざすだけで電子マネーの残高が1000円以下になると自動的に3000円チャージ(入金)されます。

ですから、うっかりチャージするのを忘れてしまい、残金が不足していて改札を通れないということがありません。しかも、チャージ残高とチャージ金額は1000円単位で自由に設定することができます。

このようにSuicaはとても便利なので、通勤だけではなくコンビニなどでの買い物にもせっせと使っています。このSuicaがJRE POINTと共通化され、各地の駅ビルで買い物をしたときにもらえるポイントをSuicaポイントに替えられるようになるとさらに便利になります。Suica経済圏に組み込まれることで今まで以上におトクがとれるようになると考えるとワクワクします。

ただ、これまで共通ポイントという掛け声だけは威勢がよくてもすぐに尻すぼみになるポイント事業者も多かったので、「JRE POINTもどうせそのひとつだろう」という人もいます。でも私はそうは思いません。素直に期待しているのです。というのは、次のような理由からです。

JR東日本は石橋を叩いても渡らない会社

私はこれまでにJR東日本やビューカードの本を書くためにかなり突っ込んだ取材をしてきました。そのときに思ったことが二つあります。

一つは、JR東日本は石橋を叩いても渡らないような、極めて慎重にことを進める会社だということです。新たにビッグプロジェクトを始める前に、それこそ右も左も上も下も裏も表もすべて徹底的に検討します。そういう会社ですから、今回、共通ポイントをスタートさせたということは、それなりの勝算があってのことだと思います。

憶えている方もいるかもしれませんが、JR東日本ではかつて「イオカード」という磁気式のプリペイドカードを発行していました。駅の券売機で切符を買ったり、切符がわりに改札機に入れて通ることができるというものでした。

その「イオカード」をICカードに変えるべき否かで、JR東日本では、1990年代後半に侃々諤々の議論が行われていました。ICカードに変えるには大変な費用がかかるが、その効果がどのくらいあるのかよくわからない、というわけで、改札機のリニューアルも「イオカード」の継続を前提にして考えるべきだという声が多かったようです。

ところが、ある社員が「非接触のICカードに変えて改札機をスイスイ通れるようにすれば毎月数億円のコスト削減になる」と提言したのです。「イオカード」は磁気カードなので改札機を通すたびに改札機のなかに磁気ストライプの滓(カス)が貯まる。

その滓を取るためのメンテナンスが必要で、莫大な経費がかかっていたそうです。首都圏のJRの駅の数とそこに設置されている自動改札機の数を考えると、相当なメンテナンス費用がかかることは容易に想像できます。非接触のICカードにすればその経費がゼロになるというわけです。

そこであらためて検討を重ねた結果、コストパフォーマンスの良さからICカードの導入が決まったのです。

JR東日本の鉄道会社としての強み

もう一つ、取材を通して感じたことは、鉄道事業者なので、時刻表通り正確に電車を運行するように、プロジェクトを進めるときも綿密なスケジュールを立ててそれをしっかり守るということです。

Suicaはもともとは電車に乗るための乗車券でした。途中から買い物にも使えるということがわかって、実用化が始まったわけです。最初のころは「電車にも乗れて買い物もできますよ」といっていわば無手勝流で加盟店を増やそうとしたのですが、なかなかうまくいきませんでした。

そんなときにある社員が、「まず集中すべきは駅ナカだ。駅のなかでお客様が楽しく買い物ができるように、Suicaが使える売店や飲食店を整備しよう。それがうまくいったら次は駅ソバ。駅の近くのコンビニやファストフード店で使えるようにしよう。そして、それが終わったら今度は街ナカだ。そんなふうに順を追って増やしていこう」と提案したのです。その結果、いまでは駅ナカはもちろん、駅ソバ、街ナカのかなりの店でSuicaが使えるようになりました。

実をいうと、しっかりした事業計画を立て、それを最後までやり通すカード事業者はあまり多くありません。方針がコロコロと変わる企業が少なくないのです。それだけに今回、JR東日本という会社がJRE POINTという共通ポイントを立ち上げたことは、大いに注目されます。

将来は共通ポイントを世界規模で展開!?

なぜJR東日本は、共通ポイントカード化に踏み切ったのでしょうか。その背景にあるのは、ビッグデータの処理ができるようになったことではないでしょうか。3年ほど前になると思いますが、Suicaの顧客データを大手メーカーに売るという話が事前に漏れて、マスコミや他の企業から叩かれたことがありました。

今度はその失敗に学んで、Suicaに集積される膨大な顧客データを一段高いレベルの消費データにするために共通ポイントが必要だと考えたのだろうと思います。そこで、JR東日本だけではなく全JRで使えるような共通ポイント化をおそらく視野に入れているのはないかと想像します。Suicaはすでに全国区になっているのですから、決して不可能ではありません。

さらに、訪日外国人(インバウンド)向けの共通ポイントというものも考えられます。特に中国の銀聯カードとうまく提携すれば、日本に大挙してやってくる中国人を取り込むことができるかもしれません。

それがうまくいけば、新幹線の輸出先の国で日本発の共通ポイントを根づかせるといったことも夢ではないでしょう。JR東日本がそこまで構想していたとしても不思議ではありません。そう考えると、たかが共通ポイント、されど共通ポイントです。JRE POINTの今後に期待しましょう。

著者プロフィール

岩田昭男 消費生活ジャーナリスト。1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。

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