大学で非常勤講師を務める著者が、大学生から投げかけられる疑問に答えるシリーズをお送りします。前回は、「アルバイト収入が103万を越えると家族の税負担にどう影響するの?」を解説しました。

今回は、社会人になって営業や販売に携わろうと考えている学生からの「自分の給料分を稼ぐには、どの程度の売上を上げればいいのか」という質問を元に、「手取りは売上の何割くらいなのか?」というテーマでお話ししたいと思います。なお、このお話は、会社員として働いていて自分の給与に納得がいかない方にも、ぜひ読んでいただきたい内容になっています。

売上高と人件費の比率から見ると、給与は少なく感じる

自分の手取りが売上から考えて多いのか少ないのかを調べようとすると、「売上高人件費率」というデータに出くわすことでしょう。売上高人件費率は「人件費÷売上高」で求められる数値です。

TKC全国会という中小企業の支援などを行っているグループが、主な業種の売上高人件費率を公表しています。おおまかにまとめると次のようになっています。

Yokoyama blog 201810-2 TKC全国会BAST要約版(平成30年4月決算~平成30年6月決算)を参考に筆者が作成

この資料だけを見ると、例えば、卸売業に従事していて手取りが25万円なのであれば、売上は250万円程度を達成すればいいように思えます(注)。

しかし、実際には、もっと多額の売上を達成しなければならないというイメージではないでしょうか。その理由は、社会保険制度と会社という組織形態が関係しています。詳しく見ていきましょう。

注)大企業は中小企業よりも売上高人件費率が低くなる傾向にあるため、これよりも多くの売上を必要とします。

人件費に含まれるものにはどんなものがあるのか

売上高人件費率を求めるときに用いられる「人件費」は、あなたが受け取る給与と同じではありません。会社は、健康保険料や年金保険料をはじめとする「法定福利費」や、通勤費・健康診断費用などの「福利厚生費」も負担しており、それも人件費に含まれています。さらに、賞与や退職金のために積み立てているお金も加算されます。

手取り25万円の人であれば、実際の人件費はどれくらいになるのでしょうか。 給与総額が30万円万円弱くらいで、ボーナスが4か月分くらいもらえるとすると、年収460万円程度です。ここに法定福利費や福利厚生費などを加えると、会社が負担する人件費は、年間520万円程度でしょう。これを1か月あたりになおすと約43万円となり、手取りの約1.7倍もの人件費がかかっていることがわかります。福利厚生が充実している企業であれば、人件費が手取りの2倍を超えることもあります。

人件費が43万円で、卸売業の平均売上高人件費率を用いると、必要な売上高は450万円となります。

あなたが売った利益は、あなただけが生み出したもの?

しかし、これだけで手取りと売上の関係が分かるわけではありません。会社の中を見渡してみると、「売上を生み出している社員」ばかりではないことに気づくでしょう。 営業のサポートをしてくれる事務員、営業方針を決めて管理監督をする上司、その他にも、経理・製造・物流・人事・経営者など、多くの人たちが仕事をし、全員の努力の結果としてモノが売れています。

こういった社員全員の人件費を含めていくと、業種にもよりますが、営業担当者の人件費の2~3倍程度のコストがかかっていると考えられます。

手取りの何倍の売上が必要なのか

以上のことから、どれくらいの売上があれば、営業・販売担当者として成果を出していると言えるのでしょうか。おおまかに計算してみましょう。

Yokoyama blog 201810-1 注)あくまで、おおまかに推定値を計算したものにすぎません。それぞれの会社で必要とされる売上を表したものではありませんのでご注意ください。

このように計算してみると、売上の数%くらいしか手取りにならないということがわかります。想像しているよりもはるかに少ないと感じるでしょうが、給与は売上から支払われるのではありません。「会社のみんなで生み出した売上を通して利益が生じるから」支払えるのです。

「会社を辞めて独立すれば収入が増える」という思い込みは危険

現実的に考えると、給与は売上のほんの一部と理解してもらえるでしょう。 ところが、「こんなに多くの売上をあげているのに、給料はたったこれだけ。会社は自分のことを全く評価していない」と考えてしまう人も少なくありません。もちろん、その理由は、ここまで説明してきたことに気付いていないためです。

中には、「会社を辞めて独立すれば、今まで不当に低く評価されていた分の収入が増える」と安易に考えてしまう人もいます。しかし、そううまくはいかず、収入がほとんど変わらないことが多く、収入が大きく減ってしまうケースも少なくありません。

独立するとなると、これまで上司や事務員、経理などが代わりに行ってくれていた仕事を、全部自分でこなすことになります。会社にいたときの半分くらいしか営業活動ができなかったり、営業の時間を確保しようとして休みが少なくなったりするかもしれません。 また、会社にいた時に受注できたのは、〇〇さんだから」ではなく、「△△社の〇〇さんだから」ということも考えられます。

「こんなに売っているのに給料はこれだけ」と思ったのであれば、不満はあるかもしれませんが、利益や自分を支えてくれている会社やメンバーのことも考えてみましょう。「思ったほどひどい給与ではなかった」と感じるかもしれません。

まとめ

会社は、あなたに支払う手取り以外にもたくさんのコストを負担しています。そのため、小規模のサービス業でもない限り、売上の1割にも満たない手取りになることがほとんどです。

しかし、手取りが少なく思えるのは、会社が搾取しているからではありません。ひとつの商品を売るのにも多くの人たちの支えが必要です。それぞれが、それぞれの持ち場で仕事をすることで、会社はみんなの給与を支払うことができるのです。


執筆者:横山研太郎

ねこのて合同会社 代表。1978年大阪生まれ。1級ファイナンシャルプランニング技能士。保険と投資をミックスした「守りと攻めを両立させる」資産形成プランを提案する。大学の非常勤講師を務めるなど、金融教育にも積極的に取り組んでいる。

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