先日、アメリカを訪れて、日本でも多くの店舗を展開しているアパレルブランドギャップの店舗に立ち寄った際に、店内のあちこちに置かれた注意書きに目が止まりました。そこには(原文は英語ですが)、こんなことが書かれていたのです。

「自分のサイズがない場合にはお申し付けください。店の在庫が品切れの場合は、後日、無料で配送します。」

もしかすると、何年か前からこのサービスを提供していたのかもしれませんが、同社のオンラインストアでは、今も特別なイベントやキャンペーン時以外は送料がかかるのに対し、実店舗では「在庫切れ」のアイテムに限るとしても、商品を自宅まで無料配送してくれるというのです。
  このサービスは、ギャップの傘下にあるオールド・ネイビーやバナナ・リパブリックの店舗でも同様に行われていました。

なぜギャップグループがこうした施策を打ち出したかといえば、当然ながら顧客を囲い込むためですが、アメリカの場合、張り合う相手はアマゾンです。ファッション関連のブランド数やアイテム数が多く、アマゾンプライム会員であれば送料無料で商品を購入できる同社のサービスは、アメリカで店舗展開するアパレルブランドにとって、脅威となっています。店舗に欲しいサイズがないというだけで、スマートフォンからアマゾンで似た服を見つけられてセールスチャンスを逃すくらいなら、送料を負担しても平気ということなのでしょう。   実店舗には、依然として実物の服に触って選べるというメリットがありますが、ギャップほどの企業であっても、かなりの危機感をもってEコマース界のプラットフォーマーであるアマゾンとの戦いに備えているという印象を受けました。

カナダロイヤル銀行のマーケティング

そんな折、フィンテック関連のネット検索をしていて見つけたのが、カナダロイヤル銀行の住宅ローンセクションにあった「引越しの心得」とでもいうべき情報ページです。

カナダロイヤル銀行情報ページ

このページでは、日本ならば区役所や市役所、あるいは引越し業社が提供しているような、転居の際に知っておくべき情報が事細かに記されています。すなわち、引越しの8週間前から始まり、6週間前、4週間前、2週間前、3日前、1日前、当日のようにカウントダウンしながら、それぞれ2~8つずつ、しておくべき事が書かれているのです。また、同じように、「家を売る際に気をつけたい7つのこと」や「最も良い条件で家を売るには」といった関連記事も用意されています。

専門的にいうと、これはコンテンツマーケティングというマーケティング手法を実践していることに他なりません。企業が消費者に対して単刀直入に製品やサービスを売り込むのではなく、消費者にとって有用な情報をコンテンツとして提供することで、まず自社に対する信頼感やブランドロイヤリティを培うことが目的です。そのために整備する自前のメディアのことを、オウンドメディアと呼びます。

たとえば日本でも、りそな銀行の「確定拠出年金スタートクラブ」や、常陽銀行の女性顧客向け金融商品情報ページ J-Palette、あるいはスルガ銀行の「夢とライフスタイルをテーマとした」情報発信拠点であるd-laboなどは、それぞれの銀行が運営するオウンドメディアです。

これに対して、カナダロイヤル銀行のWebサイトは、全般に自社サービス外の周辺情報も網羅しようとする意図が強く感じられます。それは、何故なのでしょうか?

銀行もプラットフォーマーを目指す

実は、カナダロイヤル銀行は、同国の5大銀行の一角を担うメガバンクです。同行は顧客満足度1位に輝いているだけでなく、サービスのデジタル化やモバイル化に積極的に取り組んでいることでも知られており、カナダで最初にアプリ開発者向けのAPIポータルを開設した銀行でもあるのです。

そして、新興のフィンテック企業と肩を並べていくため、AI(人工知能)の研究機関をグループ内に持ち、従来の銀行という枠に捉われないビジネス展開を推進しようとしています。

その構想の一端は、ニュージーランドのビジネス紙、ナショナル・ビジネス・レビューに掲載された金融コメンテーター、クリス・スキナー氏のコメントに垣間見ることができるでしょう。

スキナー氏によると、カナダロイヤル銀行は、「ライフイベントマネージャ」になろうとしていると言います。ライフイベントとは、誕生や結婚、マイホーム購入などの人生の節目の出来事を意味しており、そのすべてに関わり、サポートしようというわけです。それも、単にそのための資金準備のみを行うのでは既存の銀行業務と変わらないので、それ以上のことを行おうとしています。

マイホームの購入を例にとれば、カナダロイヤル銀行は単に住宅ローンを提供するだけでなく、引越し用のトラックの予約から住宅関連の各種保険の提供、果ては外装を塗り替えるペンキ屋の手配まで、それに関わるすべてのサービスを提供することを目指しているのです。

つまり金融ビジネスを軸として、そこに接点のあるすべてのライフイベントにまつわるサービスを提供するプラットフォーマーになろうとしていると考えられます。

そのことがわかれば、カナダロイヤル銀行がオウンドメディアを使って「引越しの心得」を説く意味も理解できるでしょう。やがて、これらのページは、周辺サービスへと顧客を誘導するポータル的な役割を果たしていくはずです。

すでにアマゾンは、ネット通販の出店業者を対象とする融資事業を皮切りに金融ビジネスに乗り出してきています。今後、アマゾンが金融サービスを拡大し、金融界でもプラットフォーマーになる可能性は十分にあるでしょう。カナダロイヤル銀行は、それに先んじて周辺サービスを取り込み、いわば金融界のアマゾンになることを目指しているのです。


執筆者:大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける。原宿アシストオンのウェブサイト

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