世界有数のロックバンド、U2のボノといえば、同グループのリードシンガー兼フロントマンであると同時に、その作詞を通じて社会的、政治的なメッセージを発していることでも知られています。

Bono WEF 2008 (1)

音楽活動以外では、もしかすると読者の皆さんの中にも買い求めたことのある人が居るかもしれない「PRODUCT(RED)」(注)の発起人の1人であったり、社会的に意義のある企業や組織への投資や夫婦揃っての慈善活動にも力を入れている人物です。

FinTech企業、エインコーンズ・グロウ

そんなボノが、先ごろ、自身が2017年に共同設立した投資会社ライズ・ファンドを通じ、同社初の投資をFinTech企業のエイコーンズ・グロウに対して行いました。

Acorn App (1)

英語の格言"Great oaks from little acorns grow."(樫の大木も小さなドングリから育つ)から社名を採ったエイコーンズ・グロウは、「マイクロ・インベスティング」という画期的な個人投資手法を開発し、世界初のモバイル投資プラットフォームを名乗る会社です。日本風にいえば、「千里の道も一歩から」というところでしょうか。

このシステムを使って投資してみたいと思う人は、まず、同社に投資用の口座を開設し、そこにクレジットカードなどを登録します。そして、そのカードで普通に買い物などをすると、自動的に端数が次の1ドルの区切りまで切り上げられて引き落とされ、その差額が投資に回されるのです。たとえば、支払額が10ドル25セントの場合には、この額を11ドルから引いた75セントが投資に回ることになります。 買い物をしたときに、お釣りの小銭を貯金箱に入れるという貯め方がありますが、あれの投資版と考えると良いでしょう。

しかも、エイコーンズ・グロウは、その僅かな額(とはいっても、ひと月の買い物などのお釣りを合計すれば、最低でも数ドルから十数ドルにはなるはずですが)を、複数の企業などに分散して投資するのです。   もし、このような煩雑な処理を人手で行なっていたら、時間的にもコスト的にも、とても成り立たないでしょう。また、そもそも数10セントから購入できるような株はないので、サービス自体が不可能となります。   しかし、コンピュータやAI技術の発達によって、ある程度の会員を確保できれば、集まったお金を資金として、最善と思われる組み合わせでアップルやグーグルなどの大手企業の株式も購入でき、配当や売却益を個々の会員の投資額に応じて細かく分配することが可能となったのです。実際にも、エイコーンズ・グロウは、2015年の時点で65万人の会員を集め、投資対象の株式や債券は7,000種以上に上っています。

また、自動で投資とはいっても、会員自身が、コンサバティブ(ローリスク・ローリターン)からアグレッシブ(ハイリスク・ハイリターン)までの5段階のポートフォリオを選択できるので、ある程度、自分で運用している感覚も得られる仕組みです。

新たなサービス「ファウンド・マネー」とは

そして、新たなサービスとして、「ファウンド・マネー」というものも始まりました。これに追加加入すると、アップルやニューバランス、ナイキなどの提携企業の製品の購入によって、自分の投資額にポイント代わりのキャッシュが追加されるようになります。企業にとっても、何に使われるかわからないポイントやキャッシュバックよりも、結果的に自社への投資額が増えるファウンド・マネーに協賛するほうがビジネス的なメリットを感じるでしょう。

さらに驚かされるのは、これらのサービスの手数料がわずか月額1ドル(投資額が5,000ドル以上の場合は、その0.25%)で、学生の場合には登録から4年間が完全無料という点です。

エイコーンズ・グロウのミッションは、経済的に余裕のない人でも投資を通じて資産を増やせるようにすることにありますが、それと同時に投資に馴染みのない人でも実地に少額で基本を学ぶことができるという側面も持ち合わせています。

ボノが同社に着目したのも、そういう弱者の救済や社会教育的な部分であり、エイコーンズ・グロウはFinTechの持つ素晴らしい可能性を存分に発揮している企業だといえるのです。

(注) PRODUCT(RED):様々な企業が、この共通ブランドの下にレッドカラーの製品を作って販売し、収益の一部を世界エイズ・結核・マラリア対策基金に寄付する仕組み


執筆者:大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける