サイクロン掃除機や羽根のない扇風機、ヘアドライヤーなどの革新的な製品群で知られる英国ダイソンの創立者、ジェームズ・ダイソン氏は、ただ1つのことを除いて、絶対に人に対するアドバイスをしません。唯一の例外は「アドバイスを聞くな」。つまり、すでに何事かを成し遂げた人の助言を聞いても、同じことしかできないということなのです。

前例のないことに対してアドバイスできる人はいない

世界を変えるには、人と違うことをする必要があります。過去にないことに挑む以上、そもそもアドバイスできる人は居ないはずというのが、彼の持論です。

また、漫画家で、京都精華大学学長の竹宮恵子さんも、次のようなことを話されています。ベストセラー漫画の「ワンピース」が、過去の回想シーンを表現する上で、コマ内にスクリーントーンを貼って全体を暗い灰色にするという技法を使ったところ、その後の新人漫画家たちがそれを安易に真似するようになったというのです。若者が独自の演出方法を考案せずに、先人のアイデアをなぞってばかりいる現状を嘆いているのでしょう。

FinTechの世界でも、1つのサービスが成功すると、二匹目のドジョウを狙う人たちが現れることに変わりはありません。しかし、まだ歴史が浅いために今も未開の部分が多く、新しいアイデアを考える余地や、それを元にしたビジネスの可能性が大きく広がっているという点が異なります。特に、スタートアップ企業にとっては、とても魅力のある分野なのです。

意外な進化を遂げつつある国際送金サービス

中でも、サービス自体は古くからありながら、FinTech思考によって意外ともいえる進化を遂げつつあるのが、国際送金サービスです。より先進的なFinTechの応用事例は他にいくつもあるでしょうが、その実現方法がいかにも今風で、しかも一般消費者にもわかりやすいという意味で、今回は国際送金サービスを紹介しようと思います。

というのは、自分でも過去に何回か海外送金を行なったことがあり、その手数料の高さにいつも驚かされていたからです。少額の送金でも手数料が5000円程度かかるので、最初はてっきり何かの間違いかと思ったほどでした。

ちょっと知識があれば、ビットコインなどの仮想通貨を使ってやり取りする方法も考えられ、実際にそうしたサービスも存在します。将来的にはそれが普通になるのかもしれませんが、個人的には、既存の銀行インフラを利用しつつFinTech的なヒネリを加えたTransferWiseというサービスの着目点が素晴らしいと思いました。

英国に本社を持ち、昨年から日本での知名度も上がり、現在は日本国内での運用も始まったTransferWiseは、いってみれば、送金ニーズのマッチングサービスです。

つまり、登録ユーザーの中から、A国に在住し自国からB国へ送金したい人と、B国に在住し自国からA国へ送金したい人を見つけ出します。そして、それぞれが自国の銀行に必要な金額を国内送金することで、国内手数料+TransferWiseのサービス料のみで済むようにして、余分な出費を最小限(同社によれば最大8分の1)に抑えることに成功したのです。

実際には、送金ごとに異なる相手の口座を指定するのではややこしいことになるため、国内の送金先はTransferWiseが各国の銀行に設けている専用口座を使うことによってユーザーの負担を最小限に留めています。

同社の2人の創業者はエストニア人で、特にその1人は、同じエストニア生まれのIP電話サービス、Skypeの最初の社員でもあったそうなので、こういう仕組みを思いつくのに相応しい経歴の持ち主であるとともに、FinTechで成功する上で出身国も国境も関係ないということを改めて実感しました。

ちなみに、こうした動きに対抗するかのように日本の銀行も国内外送金の手数料を大幅に引き下げるための連合体を立ち上げ、早ければ今年の秋から現実のサービスも始まるようです。知恵比べ的な競争の存在が変化をもたらしたといえますが、これからもFinTechの世界で、どんなユニークな新サービスが登場してくるのかが楽しみです。


執筆者:大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける