先日行われたアップルの開発者向けイベント、WWDC 2017のキーノートは軽く2時間を超え、例年以上に盛りだくさんの内容で充実していました。

アメリカで大人気となっているアマゾンのAIベースのスマートスピーカー、Echoに対抗するHomePodも発表されましたが、実際の発売が12月で、しかもその時点では英語版のみのリリース(販売地域も、アメリカ、イギリス、オーストラリアに限定)という点は非常に気がかりです。Echoは、ここ数ヶ月の間に日本語版も発売されるといわれ、価格的にも安いので、その牙城を崩すことは、いかにアップルといえども、なかなか難しいように感じられます。

この秋リリース予定のApple Pay Cash、まずはアメリカから

一方で、これも当初はアメリカ国内だけでの展開ながら、Fintech的に注目されるのが、秋にリリース予定のiOS 11から実装されるApple Payのピア・ツー・ピア版サービスとなるApple Pay Cashです(当初は、アメリカ国内のみで運用)。

WWDC2017ApplePayPersontoperson

日本でもiPhone 7/7 PlusやApple Watch series 2の登場以降、JR東日本系のSuicaが使えることなどから一気にユーザーを増やした感のあるApple Payを、アップルは「非接触式ではナンバー1のモバイル・ペイメントサービス」と主張しています(あえて「非接触式では」と絞り込んだところがミソです)。

そのApple Payは、個人が業者に対して支払いを行う際に利用するためのものですが、これを個人間でのお金のやり取りに使えるようにしたものがApple Pay Cashだと考えるとわかりやすいでしょう。

しかも、支払いのための専用アプリやWebページへのアクセスなどは不要で、普段から使っているメッセージングアプリのiMessageの上で処理が完結します(反面、お金を送る側も受け取る側も、最新OSを搭載したアップル製品のユーザーに限定されることにはなりますが)。

日本国内で個人間送金サービスが始まるのはいつ?

あれ、どこかで聞いたような…と思われた方は、なかなか鋭いですね。実は、iMessageを使った個人間の送金は、今年の3月3日に、東京・丸の内において開催された、FIBC(金融イノベーションビジネスカンファレンス)2017の中で、国内初の更新系APIを公開したみずほフィナンシャルグループが技術デモとして行なっていました。

この際にプラットフォームとして用いられたのは、マネーツリーのiMessageアプリ「ワリカン」でしたが、日本ではまだ更新系APIの運用に伴うリスク分析や関連法案の整備が必要なため、アップルを含めて国内でこうしたサービスを享受できるようになる時期は、まだ少し先になりそうです。

いずれにしても、Apple Pay Cashと似たサービスは、すでにアメリカ国内ではいくつか存在していて、ペイパル傘下のヴェンモや、スマートフォンでクレジットカードを読み取って決済できるサービスで成長したスクエアによるスクエア・キャッシュ、あるいはフェイスブックがメッセンジャーサービス上で行なっているフェイスブック・ペイメンツなどがライバルにあたります。

ソーシャル・ペイメントの名前の由来

たとえば、以前から電子メールを使って個人間の送金サービスを実現していたペイパルが、わざわざヴェンモの親会社を買収したのは、メールよりもメッセージアプリを多用し、既存のクレジットカードやデビットカードを所有している割合が少ない若者たちにモバイル・ペイメントを使ってもらい、ユーザーを増やすことが目的でした。スクエアやフェイスブック、そしてアップルにも同じような思惑があります。

そして、送金処理にSNSが用いられたり、送金した事実がSNSを通じて共有されることから、このようなサービスはソーシャル・ペイメントと総称されるようになりました。

これまでは、クレジットカードやプリペイドカード、あるいはApple Payのようなモバイルペイメントを使えば、確かに街中で物を買ったり、交通機関での移動はキャッシュレスで行えましたが、割り勘や立て替えの支払い、貸し借りといった個人間でのお金のやりとりは、硬貨やお札、相手口座への振り込みなどが必要で、なかなかスマートにはいきませんでした。

しかし、ソーシャル・ペイメントが普及すれば、真のキャッシュレス社会への移行が一気に進んでいくことでしょう。

Appleの今後の展望とは?

Apple Pay Cashは、クレジットカードやデビットカードをWalletアプリに登録して使いますが、アップルは、Apple Pay Cashのための独自の仮想的なデビットカード、Apple Pay Cashカードも準備中です。このカードの発行やApple Pay Cashによる処理を担当するのは、グリーン・ドットというプリペイド・ペイメント・カード会社なのですが、将来的にはアップル自身がデビットカードを発行することも視野に入れているようです。

つまり、アップル自体が銀行機能も持つようになっていくわけで、まさに破壊的な改革が起こる可能性は少なくありません。金融庁には、ぜひ法律の整備や規制の見直しを加速し、日本の銀行が温めているアイデアを1日でも早く実用化できるようにして、Fintechを健全かつ着実に日本でも根付かせていける環境を整えてもらうことを、切に希望しています。


執筆者:大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける