感覚の伸縮性

昔から、楽しいことをしていると時間は速く過ぎ、退屈な場合や辛いときにには時間が遅く流れると言われてきました。もちろん、相対性理論によれば、光速に近い速度で移動しない限り、時間の経過が遅くなることはないはずなのです。しかし、実のところ人間の心(もしくは脳)の中では、時間というものは自在に、かつ頻繁に伸び縮みしてしまうようです。

そして、いつの頃からか筆者は、似たようなことがお金にもいえるのではと感じるようになりました。つまり、硬貨1個、お札1枚の価値は、物価が安定していれば変わらないはずなのに、楽しいことに費やしているときは多少嵩んでも安いと思え、気が進まずに差し出すときには、たとえ100円や10円といえども高いと感じてしまうといった点が、時間感覚と似ているのです。

Fabミニ四駆カップ

個人的に、このところ出費が重なっているのは、Fabミニ四駆カップというレース関連の費用なのですが、これはタミヤのミニ四駆キットをベースに、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーション技術を利用してカスタマイズを施し、競争をさせるというイベントです。

同イベントは、レースの形を借りたファブ技術やIoT技術の実践の場でもあるため、筆者は実際に自分のノウハウを試しながら体験記が書ける機会ととらえて、2015年の第2回大会に臨んだのですが、たまたま他の参加者にコースアウトが相次いだマジFabクラス優勝してしまい、そこからはまり込んだ経緯があります。

マジFabクラス優勝車両 外装が特殊な布張りになっているBMWのショーカー、Ginaをモチーフとし、3Dプリントした骨組みに伸縮性のあるファブリックを張って仕上げた、筆者の2015年のマジFabクラス優勝車両とトロフィー

マジFabクラスとカルFabクラス

マジFabクラスというのは、タミヤのミニ四駆の標準キット以外のパーツはすべてファブする必要があるクラスを指し、もう1つ、どこか一部でもファブしてあればOKで、タミヤ純正のグレードアップパーツも使えるカルFabクラスがあります。

しかも、急速に技術が進むと同時に、様々な分野や職業の方々の参加が相次いでいるイベントなので、参加者の中にはボディはもちろんシャシーまですべて自作という猛者もいて、第3回目の今年は筆者も残念ながらトーナメントの途中で敗退を喫しました。

マジFabクラス参加車両 勢ぞろいした2016年のマジFab参加車両。手前の黄色い2台も筆者が製作し、ホッチキス型(実際に紙を綴じることも可能)のゴーズオン・ステープラー号は、銀座のボールペンと鉛筆の店 五十音、および信頼文具舗の店主と筆者が結成したチーム・50サウンズからの出走となった

それでも、新型車両を作る過程でプロ向けの3D CADソフトのAutodesk Fusion 360の基本的なモデリングを習得したり、赤外線を受けてモーター出力をコントロールする基板をハンダ付けしながら作るワークショップに参加したりと、懐からお金が出ていく一方で、自分の中の体験の貯金はかなり増えたことを実感します。

カルFab参加車両 Fusion 360でデザインしたボディと、ミッドマウントされた逆円錐型の(自称)大谷ローラーを装備した2016年のカルFab参加車両。塗装は、スプレーしたものを再帰性反射(光を、来た方向に反射する)素材化できるAlbedo100で行った

時間とお金の普段と異なる感覚

まあ、かかる費用といっても、ミニ四駆キットとモーターがそれぞれ数百円、数十グラム分の3Dプリント用フィラメントがやはり数百円、ワークショップ参加費が数千円、そしてレースへのエントリー費用が2000円/台程度で、電子機器よりははるかに少ないといえるでしょう。

ところが、アイデアが湧くと次々に試作して試したくなるため、キリがありません。今も、頭の中では、次の大会に向けた車両開発のプランが駆け巡っています。

Fabミニ四駆カップは、筆者にとって、時間とお金の両面で普段とは異なる感覚が溢れている一大イベントなのです。

著者プロフィール

大谷和利 テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける

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