前回に引き続き、テクノロジーライターで、原宿アシストオン取締役の大谷和利さんのコラム「心への投資の旅」、いよいよ後編です。これまで3回にわたり、人生における充電時間としての旅について記事を書いていただきました。それでは心を充電するためには何が大切なのでしょうか?常に成果を得ることに固執しては、何も得られないかもしれません。

デザイナー 鈴木孝彦さんと偶然の再会

時は流れて昨年の3月、成田国際空港でデリー行きのエアインディア機の搭乗待ちをしていたときのこと。MacBook Proで作業をしていると、声をかけてきた人がありました。顔を上げると、そこには数年間会うことのなかった鈴木さんの姿が…。しかも、同じ便でインドに向かうというではありませんか!

実は、本来、僕のインド行きは2月の予定だったのですが、現地の選挙の都合で参加するはずのカンファレンスが延期されたため、移動がその日になったという事情がありました。また、いつも海外へは、自宅のある大阪の関空か伊丹から発つことが多いのですが、便の都合で成田発にせざるをえなかったのです。

つまり、インドという行き先、3月にずれた出発日、成田発の便という3つの偶然が、僕と鈴木さんを再び引き合わせたことになります。さらに、少しでも搭乗のタイミングがずれていたら、同じ便に乗っていても気づかなかったでしょう。実に面白い巡り合わせとしかいいようがありません。

Mumbai

年間利用客が成田国際空港を上回るムンバイ空港(正式名称は、チャトラパティ・シヴァージー国際空港)ターミナル2の、天井部分とサインポール。SOM(スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル)が手がけたデザインは、ペルシャの影響を受けたインド建築のエッセンスとモダンな感覚を融合している

鈴木さんのインド旅

鈴木さんは、少し創作活動が煮詰まっている感じがするので、2週間ほどインドの地方を放浪し、充電してくるとのことでした(後から実際にはインド滞在を1ヶ月に伸ばしたことを知りました)。

振り返れば、このとき彼は充電の旅に出かけ、僕は旅してみたら充電になったということなのですが、その時点では自分自身はまだインドの凄さがわかっていなかったといえます。

鈴木さんは、具体的に何を得るのかという明確な目標があったわけでも、特にどこを回るという計画も立てていたわけでもありません。しかし、後から考えると、すべてが予定通りにいくとは限らないインドで求められるのは、刻々と変化する状況に臨機応変に対応する判断力と、多少の障害は受け流す柔軟な姿勢だったのです。

例によって、直感が導くままに航空券を予約し、滞在期間だけ決めて移動するという鈴木さんのやり方こそが、インドに相応しく、結果的に多くの成果が得られる行動パターンだったことが、今ではよくわかります。

充電を時間(あるいは分)単位で捉えるならば、1日の中でもひと息入れる充電期間を設けることは十分可能です。そのあり方も、カフェでの休憩や家族との団欒、小旅行など、人それぞれでしょう。

Mumbai Ferry

ムンバイのエレファンタ島に向かうフェリーの船上で見かけた親子。屈託のない娘さんと笑顔の父親に対して、母親は何やら心配そうだ

心を休ませる

いずれにしても大切なのは気持ちの切り替えを行うことにあり、休むときには休むことに専念して、そこから自然に湧き出てくるものを大事にしないと、充電にも投資にもならないと個人的には考えます。実際の投資でも元が取れない場合があるように、充電期間中もそこから何かを得ることに固執してしまうと「成果がない=失敗」という仕事的な論理から離れられません。

その意味で、普段の業務とは異なる環境、時間、評価基準の中に身を置くこと自体が、人間にとっての充電、人生における投資の意義ではないでしょうか。

かつて主流だったニッカド系充電池には「メモリ効果」と呼ばれる現象があり、充電前に放電(リフレッシュ)しておかないと充電量を100%まで回復できませんでした。一方で、現在主流のリチウムイオン系充電池は、常にセンサー制御で過充電による過熱を防がないと爆発する危険性があります。

「明日の自分」を考えるとき、一度空っぽにして、しかも熱くなりすぎない、その2つを両立する休み方が求められている気がするのです。

著者プロフィール

大谷和利 テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける

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