数年前から大きな注目を集めている「副業」。今や、会社員が本業の他にもう一つ仕事を持っていることは、珍しいことではなくなってきました。さらには、もう一つの仕事をサブとするのではなく、どちらも本業と考える「複業」の意識で働く人も少なくありません。それでは、複数の仕事を掛け持つ場合、お金をどう管理していくのがよいのでしょうか。「複業」を行うAさんの事例をもとに、収支の管理方法や家計の改善ポイントを解説していきます。

副業(複業)をしている人ってどのくらいいるの?

近年、会社員の働き方は、従来までと大きく変わろうとしています。終身雇用や年功序列といった旧来の体制が崩壊し、一つの会社に定年まで勤め続け、本業のみにまい進するケースばかりではなくなってきました。それに伴い、多様な働き方の一つとして、副業を選択する人も増加しています。休日や帰宅後の空いた時間を使い、収入を増やすことのできる副業。給与が思うように上がらない人にとっては、副業が認められる社会になりつつあるのは喜ばしいことでしょう。一方、従業員を雇用する側の企業にも、副業を解禁することにはメリットがあるという考えが広まっているようです。たとえば、上がらない給与分を社員が自助努力で補ったり、社外で新たな知識や技術を取り入れたりすることで、能力アップが見込めることなど、企業にとって社員の副業は悪いことばかりではないというのです。

では、実際にどのくらいの人が副業を行っているのでしょうか。クラウドソーシングサービス大手ランサーズの「フリーランス実態調査2018 ※」によると、会社員として勤めながら、副業としてフリーランスで働いている人は744万人。2015年の調査時に比べ、3倍にも達しているそうです。副業の経済規模は約8兆円にもなり、これは日本の給与支払い額の4%に値しています。なお、ここで言うフリーランスにも様々なタイプがありますが、すきま時間を利用して行う副業の平均年収は74万円、複業スタイルの「パラレルワーカー」の平均年収は154万円となっています(年収はフリーランス分のみ)。

このデータから、副業に関する世間の関心の高さだけではなく、実際に副業を行う人の割合はここ数年で大きく伸びていることがわかります。また、複数の仕事を掛け持つタイプの人は、すきま時間に副業を行う人に比べ、フリーランス分の年収が高くなっていることも読み取れます。

※全国の20~69歳の男女3,096人(うちフリーランス1,550人)を対象に調査。

「仕事を二つ持つ」意識で働くAさんの1ヶ月の収支とは

先日マネー相談を担当することになったAさんも、「複業」を行う会社員です。Aさんが勤めるのは、「本業の仕事に役立つなら」と、社員の副業を寛容に認めている企業。一般的には、多くの企業で解禁になったとはいえ、未だコソコソと副業を行う人が大半です。しかし、Aさんの周りでは、堂々と複数の仕事を掛け持つ人が決して珍しくはなく、中にはサラリーマンでありながら株式会社を設立するような人もいるのだそうです。Aさんは、IT企業に勤める傍ら、これまで得てきた知識を生かし、平日の帰宅後や休日を利用してウェブコンテンツを作る仕事をしています。逆に、自分で行う仕事のノウハウが会社での業務に生きることもあり、とても効率のよい相乗効果を実感しているのだとか。だからこそ、現状では会社の給与や勤務時間のほうが副業よりも圧倒的に多いとはいえ、どちらが本業でどちらがサブといった感覚はなく、「二つの仕事を掛け持っている」「どちらも自分にとっては本業」という意識で働くことができているのだそうです。

このように、二つの仕事がともに充実しているAさんですが、それでは、毎月の収支はどのように把握しているのでしょうか。家計の管理についてAさんに尋ねてみたところ、「仕事が忙しいことにかまけて、あまりお金の使い方には意識を向けてこなかった」とのこと。新卒で就職して以来、毎月いくら使っているかを、一度も把握したことがなかったのだそうです。近いうちに結婚を控えていることもあり、これを機にお金の管理について考えてみたいということでした。

そんなAさんには、まず1ヶ月間、家計簿アプリ『Moneytree』でお金の流れを記録してもらうことにしました。現金のみならず、クレジットカードや電子マネーの利用分も一括管理してお金の流れを視覚化させます。

<Aさんのプロフィールとある1ヶ月の収支>
Aさん(27歳):IT企業勤務
※結婚を考えているパートナーと同棲中

1ヶ月の給与:420,552円
1ヶ月の副収入:177,280円
貯金:約500万円(うち外貨預金約20万円、株式約80万円)

Aさん事例1

キャリアアップを優先させたいAさんの家計のポイントとは

現在、結婚を予定しているパートナーと同棲中というAさん。生活費はAさんの口座から引き落とされ、食費や日用雑貨費として毎月5~6万円ほどを渡しているようですが、パートナーの給与からその一部を支払うこともあり、実際には、上記の数字以上に食費などがかかっているそうです。この1ヶ月は、会社からの帰宅後や休日に自身の仕事の作業を行って過ごすことが特に多く、娯楽費などに大きなお金がかかっていることはありません。

現状では、全体として大きな出費や無駄な出費が目立つわけではありませんが、やはり食費の高さは目を引きます。しかし、パソコン作業を行うため、出勤前などに頻繫にカフェに通う習慣や、二つの仕事の妨げにならないよう外食や総菜の利用をやめることは極力避けたく、パートナーも多忙なため、食費は高めのままでも構わないという考えのようです。

保険は、社会に出た時から「何か入らなければ」と思いつつ、未だ未加入とのこと。死亡や病気、ケガに備える保障を持っていないことが気になっているそうです。また、資産のうち約5分の1は外貨預金や株式で構成されています。以前はFXや株式投資で短期トレードを行っていた時期もありましたが、現在は株主優待と配当を目的とした保有をしているということ。投資には割と関心があり、必要があればチャレンジしてみたいという希望もあるそうです。

なお、貯金は20万円以上できているように見えますが、毎月にかかる経費以外にも、不定期に発生する支払いがあり、また、翌年には確定申告を行って自分で税金を支払う必要もあります。無駄使いや衝動買いは少ないですが、スキルアップのための自己投資には惜しみなくお金を使うようにしているそうで、その際には大きな出費が発生することもあるということです。

Aさんの希望としては、収支を管理することで節約につなげるというよりも、主に、経費や自己投資の費用対効果、バランスを確認することを目的とし、それを元にさらにキャリアアップに役立てたいという気持ちが強いそうです。もちろん、その中で無駄な支出があれば、見直して削減していきたいということ。また、複業によって収入を得て終わるのではなく、一部を投資に回して効率的に運用していきたいと話してくださりました。

仕事を充実させながらお金の管理もしっかりと

とにかく今は仕事を優先したいAさん。しかし、そうした中でもお金に向き合い、将来設計も立てていくためには、家計に対してどのような意識を持てば良いのでしょうか。Aさんには以下のような点をアドバイスしました。

・食材の宅配を利用するなどして食事の選択肢を増やす
自炊をほとんどしない家庭は、食費がかさむことはもちろん、栄養バランスの乱れも気になります。Aさんは自炊の時間は極力作りたくないということですが、たとえば、食材の宅配サービスなどを利用すれば、すでに栄養バランスや献立の考えられた食材を家にいながらにして受け取ることができます。調理の手間は多少かかりますが、レシピを見ながら15分程度で出来上がるものもありますし、何より買い物に行く必要がありません。自炊に比べると割高になりますが、外食を重ねるよりは様々なメリットが受けられるということで、選択肢の一つとして提案してみました。

・都道府県民共済に加入し必要な保障をつける
現状では独身で、結婚後も共働きを続ける予定のAさんには、将来的に子どもが生まれるまでは、ひとまず死亡保障は必要ありません。一方、病気やケガに備える保障として、「都道府県民共済」をおすすめしました。都道府県民共済の生命共済は、総合保障型と入院保障型、両者の組み合わせの3種類から選ぶことができ、掛け金が手ごろなのが特徴です。さらに、「割戻金」が戻るため、実質的な掛け金はさらに下がる可能性があります。たとえば、東京都民共済の平成28年度の割戻率は、振込掛金の38.66%。毎月2,000円の掛金で年間24,000円を支払う場合、割戻金は9,278円、月々の掛け金は約1,227円となる計算です。

・パートナーと支出の分担や家計の管理について話し合う
これから結婚を控えているAさんですが、パートナーの彼女と一緒に暮らしているにもかかわらず、家計の負担はほぼAさんにかかっている状態です。お互いに、結婚後も変わらず仕事を続けていく予定であることを考えると、それぞれの収入に応じた支出の分担や家計の管理を一緒に行っていくのがベターでしょう。

・経費や自己投資を定期的にチェック
これまで、経費や自己投資の費用は把握していたものの、「見える化」が足りていなかったというAさん。今回、『Moneytree』アプリを利用することで、毎月の支出をしっかりと確認することができたと言います。ある程度の金額の副収入があるため、税理士など専門家にお任せする部分もありますが、一方で、家計とは別に、副収入とそれにかかる経費や自己投資の費用をまとめ、フリーランスとしてお金の管理意識を持つことも大切です。

こうした点を踏まえた次の1ヶ月、Aさんの収支は以下のようになりました。

<改善後のAさんの1ヶ月の収支>

1ヶ月の給与:418,273円
1ヶ月の副収入:216,220円

Aさん事例2

収支の記録を始めた次の1ヶ月、出費が大きく減ることはなかったものの、Aさんにはいくつかの変化や気づきがあったようです。まず、アドバイスをした食材宅配を何度か利用したことで、食費を多少減らすことができた点。調理はやはり手間に感じたため、たまに利用するくらいが限界と言いますが、仕事を優先させるあまり食生活を疎かにしていたと気づくことができたのは良かったと話していました。

経費や自己投資の費用に関しては、『Moneytree』の「経費精算」を利用して、別途管理。収入との費用対効果やバランスを意識するように心がけます。「自己投資」という名のもとに無駄な出費をしていないか、自戒の念も込めて確認するようにしているそうです。また、提案した都道府県民共済については、加入を検討中。他の医療保険とも比較し、しばらく考えたいということでした。

そしてAさんは、今回収支の管理を始めたことをきっかけに、証券口座や銀行口座の登録も行い、家計の見直しだけでなく、資産管理にも役立ててみたいと言います。株式投資の他、将来のために投資信託で運用を始め、それらをアプリで一括管理を行うことも考えているそうです。二つの仕事を掛け持ち忙しい日々を送っているからこそ、家計管理に手間や時間を取られず、資産の情報を集約できるアプリはとても役立ち、マネープランを立てやすくなったことがAさんにとっては一番の収穫だったようです。多忙でも仕事一辺倒にならず、将来設計も両立させることでよりよいビジョンを描けそうと話してくださりました。なお、結婚を予定しているパートナーと、いずれは家計簿を共有することも考えているそうです。

「複業」という新しい働き方も一つの選択肢

副業ならぬ複業は、ただ単に収入を増やす手段ではなく、自分のキャリアを見据え、市場価値を上げていくための強い武器になる可能性があります。今後は、こうした働き方を選択する人がますます増えていき、仕事を複数掛け持つことが普通になっていくかもしれません。いずれにしても、安心して希望するキャリアを描くためには、お金のことにしっかり向き合っておくことが大切です。仕事に夢中になって収支の把握はさっぱり…という方は、一度、自分自身の家計に目を向けてみてはいかがでしょうか。


執筆者:武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)。1983年埼玉県生まれ。会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやコラム執筆を行う。独立後は、起業のコンサルティング業務とともに、執筆や個人マネー相談、メディア出演などを中心に活動中。著書に『いちばん稼ぎやすい簡単ブログ副業』(河出書房新社)がある。