「ストレス」という言葉は、もともとは物理学の用語で、「物体が歪んだ状態」のことを意味します。このとき、物体を歪ませている力を「ストレッサー」といい、これがストレスを引き起こす要因です。これが転じて一般的に心に負荷がかかった状態を「ストレスがかかる」などというようになりました。つまり、厳密に言うと「ストレス」は「ある刺激が心身に加えられたとき、その心身に生じるゆがんだ(負荷のかかった)状態」を指し、「ゆがませる(負荷をかける)原因となる刺激」を「ストレッサー」と言います。私たちが一般的に「ストレス」という言葉を使う場合は、主にこの「原因となる刺激=ストレッサー」のことを指しています。

ではなぜこのようにストレスという言葉が頻繁に使われるようになったのでしょうか?それは、将来の見通しが立てづらい世の中になり、頑張ってもなかなか成果が出づらくなってきたからではないでしょうか。バブル崩壊以降、財布の紐が固くなった消費者はなかなかものを買わなくなりました。モノやサービスの提供者は、あの手この手で消費者を振り向かせようと努力しますが、高度成長期のように大量にモノやサービスを提供してもなかなか売れない時代になってきたのです。顧客ニーズが複雑化し、将来の見通しを立てづらい世の中になると、モノやサービスの提供者側もなんとか顧客ニーズを予測し、失敗しないように注意しながら事業を行うようになります。昔は将来の見通しが立てやすかったため、たとえ失敗しても取り返せるだけの代替案がありました。

しかし、現在は失敗しても代替案が立てづらいため、失敗が許されないようになってきているのです。そうなると、ますます失敗しないようにあれこれとリスク対策を練るようになります。リスク対策自体は悪いことではありませんが、過剰なリスク対策は、心理的にも体力的にも大きく疲労がたまるものです。このような経緯で、日本人は何をやるにも常にストレスと隣り合わせになるようになってきたのです。

増え続ける休職者

適度なストレスは人間を成長させることがわかっています。しかし、過度なストレスは心身に異常をきたすこともまたわかっています。そして、過度なストレスにより心身に異常を感じ、休職してしまう人の割合は年々増加しています。

独立行政法人経済産業研究所によると、2004年から2011年の間で休職者の割合は倍増しています。近年、国からも働き方改革が提唱され、長時間労働などのストレス要因は減少させる方向に進みつつありますが、それでも全従業員の0.5%前後が、メンタルヘルスを理由として休職しているという現状があります。

メンタルヘルス休職者比率と労働時間との関係 ストレス社会だからこそ知っておきたい傷病手当金 (出典:独立行政法人経済産業研究所)

また、メンタルヘルスを理由として休職する方は、休職して収入が減ることや周りに迷惑をかける恐怖感から無理をして働こうとしてしまい、かえって自分を責めてよけい症状が悪化する傾向があるようです。そして、負のスパイラルにはまってしまい、休職する頃には重症化してしまっているケースが見られます。

これでは、健康で生き生きと働くことなどできません。ストレスが増えているのは事実ですから、ストレスと上手に付き合い、負荷が大きくなりすぎたら早めに休むことが必要なのです。かくいう筆者も過度な仕事でのストレスが原因で数ヶ月休職をしたことがあります。その際には幸いにして早めに医者にかかったので重症化は避けられましたが、我慢を重ねて働き続けていたらと考えるとゾッとします。では、仮に休職したとして、その間の収入はどうすればよいのでしょうか?

傷病手当金とは

休職したとしても、一定の条件を満たせば「傷病手当金」がもらえます。これは、健康保険の制度の一つで、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。具体的には、給料の約2/3の額が最長で1年6ヶ月間支給されるのです。

よくあるのが、この給付金のことを知らないがために収入減を心配して無理を重ねてしまうこと。給料の2/3の額(しかも非課税)がもらえるのですから、厳しいと思ったらすぐに医者にかかって休職も視野にいれるようにしましょう。ではどのような条件を満たせば支給されるのでしょうか。それは以下の4つすべてです。

1.業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
傷病手当金は、仕事以外を原因とする病気やケガの療養のために休業する際に支給されます。よく入院していないと給付されないと誤解されがちですが、自宅療養であっても支給対象になります。また、保険外の診療(自費診療)でも、仕事につくことができないという医師の証明があれば支給対象です。ただし、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や病気と見なされないもの(美容整形など)は支給対象外です。

2.仕事に就くことができないこと
病気やケガのために今までやってきた仕事をすることができないと判断された場合に支給の対象になります。仕事をすることができないという判断は自己判断ではなく、必ず医師の判断が必要です。ですから、仕事による過度なストレスによって精神が疲れ切ってしまっているときなどでも、ご自身が正常な判断ができるうちに医師に早めに相談をするようにしましょう。

3.連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
病気やケガで休み始めた最初の3日間は「待機期間」といわれ、傷病手当金は支給されません。連続して3日間休んだら待機期間が成立(待機完成)し、4日目から、傷病手当金が支給されます。連続して3日休むというのがポイントで、「1日休む→1日出勤→2日休む→1日出勤」だと待機期間は成立しません。待機期間の3日間は、有給休暇、公休(土日祝などのもともとの休日)、欠勤など、どの休み方でも休みとしてカウントされます。

4.休業した期間について給与の支払いがないこと
傷病手当金は、業務外の事由による病気やケガで休業している期間について生活保障を行う制度のため、給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。有給休暇を使った場合などがこれに当たります。たとえば、心身が疲れ切ってしまって会社を欠勤した場合、しばらくは有給消化に充てられ、有給を使い切ったあとは無給の休暇扱いになります。この無休の期間を休業の期間とみなします。ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。

業務上や通勤途中にケガをしたり、仕事が原因で病気になったりした場合は労災扱いになるので、傷病手当金の対象にはなりません。仕事上のストレスが原因で休職した場合、労災になるかどうかは判断が難しく、またいざ労災認定させようとすると会社と裁判になったりするケースもあって更にストレスがかかってきます。ですからまずは傷病手当金を申請しておいたほうが良いでしょう。

もう一点注意が必要なのが、この制度の適用範囲が健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合)であることです。ですから、会社員や公務員であれば誰でも受給ができますが、自営業の方などは給付の対象外となります。

どうやればもらえるの?

ここからは具体的な流れに沿ってどのように支給されるのかを説明していきます。病気であることがわかったら医師や看護師に治療にかかる期間や金額の確認をしましょう。ここで期間が長くなりそうであれば傷病手当金の申請を検討しましょう。そして、医師に傷病手当金の申請書に証明を書いてもらえるか確認しておきましょう。また、医療費が高くなれば高額療養費という健康保険の給付金の申請をすることも検討しておきましょう。

次に行うのは会社への報告です。仕事上のストレスが原因で休職した場合、おそらくほとんどのケースは「会社に相談することなく急に会社にいけなくなる」でしょう。こういう場合、会社の誰に連絡すればよいかわかりませんよね。まして上司からのストレスが原因だった場合などは、なおのこと連絡がしづらいものです。しかし、会社に長期の欠勤が必要となったことを報告しなければ手当金が出ませんから、少しでも相談に乗ってくれそうな同僚などを通じて人事担当者に報告するようにしましょう。

以降、窓口は人事の担当者が行ってくれることが多いので、合わせて傷病手当金の申請をすることも伝えておきましょう。仕事が原因の場合は労災を申請するのが本来の筋ですが、労災を申請するとなると、「仕事が原因であること」の立証が必要になったり会社とのタフな交渉が発生したりと、非常にストレスが溜まります。仕事上のストレスが原因と思われる場合、気持ちも弱っているでしょうから、まずは傷病手当金の申請をして経済的な不安を早期に軽減することをおすすめします。

次に申請書の準備をします。申請書は全国健康保険協会(保険者)で申請書をもらうか、ホームページから印刷することで手に入れることができます。また、病院によっては病院に用意してある場合もあるので、医師にも相談してみてください。

申請書を手に入れたら、医師に書いてもらわなければいけない箇所があるのでその部分を医師に書いてもらいましょう。具体的には、就労ができないことの証明をもらいます。注意しなければならないのは、医師の証明は申請期間が経過してからもらわなければならないということです。どういうことかというと、たとえば、3月1日から3月31日の傷病手当金を申請したい場合は、3月31日以降に証明書をもらい、医師に記入してもらう必要があるということです。つまり、給与を当月払いでもらっている人が休職して傷病手当金を受給する場合は、受給する日が1ヶ月ほど後倒しになるのです。ですから、毎月のお金の出入りはきちんと把握し、ある程度余裕を持った状態で申請をして、傷病手当金をもらうまでに現金が枯渇してしまうという事態を避けるようにしましょう。例えば3ヶ月まとめての申請もなども可能ですが、入金を早くするためにも、1ヶ月ごとの申請をお奨めいたします。

公的支援は知らないものがたくさんある

傷病手当金がどういうもので、申請をどうやればよいかなどについてここまで書いてきました。私が休職したときもこの制度はあったものの、私自身が知らなかったことに加え、医師が何も説明をしてくれなかったために、1円も受給することができませんでした。

このような公的支援は他にもたくさんあります。先に少しだけ触れた高額療養費制度などもそれに当たります。日本は、実は制度面はとても充実しているのです。ただ、残念なことにそれが我々国民にあまり知られていないのです。ですから、何か困ったことがあったら、まずや近隣の役所に相談してみてください。かならず何かしらの支援策があります。せっかく制度があるのであれば使わない手はありませんよね。

最後にもう一つ、ストレスが多い現在の世の中、いくら自分が大丈夫だと思っていても、心身の健康を損なうことは必ずあります。そのときには、どれだけ早く医師に相談できるかが鍵になってきます。真面目に頑張ってきた人に限って、自分が心身を病むなんてことはないと、気の持ちようだと頑張ってしまって、かえって重症化してしまう傾向があります。ちょっとでもおかしいなと思ったら、すぐに医者に相談するクセを付けておきましょう。本当であれば休職などせずに楽しく働きたいもの。周りの手を借りつつストレスとも上手に付き合っていきましょう。


執筆者:取材の学校 ライター 堀江賢一

1977年生まれ。福岡県育ち。九州大学大学院理学府修了。中小企業診断士、ファイナンシャルプランナー(AFP)。 大手電機メーカーにてグローバルSCMプロジェクトやインターネットコンテンツ配信システムの販売、事業部改革プロジェクトなどに携わる。システム開発、販売、組織改革と、企業組織活動のあらゆる面を経験。その後コンサルティング企業を経て、現在はインターネット企業で、クラウドの事業戦略やマーケティング戦略の立案と実行に尽力している。戦略と実行計画の立案、プロジェクト推進が得意。 趣味はアカペラとテニス。友人と5人でアカペラユニットを組んでおり、結婚式などで歌を披露している。全日本テニスランキング保持者。